はどめ規定

「はどめ規定」とは、学校の性教育において「性交」について具体的に教えることを制限する規定のことです。日本では、特に公立学校における性教育の内容が慎重に扱われており、児童や生徒に対する教育が「不適切」だと判断されることを防ぐために、学習指導要領の「内容の取扱い」において、特定の内容を扱うことを前提にした上で、その扱い方を制限する規定です。

小中学校の学習指導要領には、次のような「はどめ規定」が設けられています。

  • 小学5年理科:人の受精に至る過程は取り扱わないものとする
  • 中学校保健体育:妊娠の経過は取り扱わないものとする

「はどめ規定」の背景と内容

この規定は、青少年の健全な成長を促進する目的で設けられており、性教育の内容が道徳的・倫理的な枠組みの中で行われることを求めています。具体的には、小中学校では性交に関する具体的な情報を教えず、避妊や性感染症に関する教育も抽象的な形に留めることが多く、直接的な性行為に関する知識の伝達が抑制されます。

「はどめ規定」の弊害

1. 現実との乖離: 生徒たちはインターネットやメディアを通じて、性交や性的な話題に接することが増えており、学校での教育がそれに対応できていないと、現実とのギャップが生じます。性行為や避妊についての正しい知識を得る機会が減り、不正確な情報や誤解を抱いたまま成長するリスクがあります。

2. 避妊や性感染症予防の理解不足: 学校で避妊や性感染症に関する実践的な知識が十分に提供されないため、性行為に関するリスクを十分に理解しないまま性行動に及ぶ可能性があります。これは望まない妊娠や性感染症のリスクを高めることにつながります。

3. 性暴力や同意の教育不足: 性教育の一部が抑制されることで、性行為における「同意」の重要性や性暴力の防止についての教育が不十分になりがちです。これにより、性的同意や性暴力に対する認識が曖昧になり、適切な判断力を持たないまま危険な状況に置かれる生徒が増える可能性があります。

4. 多様な性の在り方に対応できない: 性教育が制限されることで、LGBTQ+などの性的少数者についての教育が不十分になる場合もあります。これは、生徒たちが性的多様性に対する理解を深める機会を失い、偏見や差別を助長する一因となり得ます。

これらの弊害により、性教育の見直しを求める声が国内外で高まっています。

日本の小中学校の学習指導要領で設けられている「はどめ規定」の問題点

問題点

1. 情報不足による混乱と誤解

子どもたちが受精や妊娠に関する情報を学校で学べないことにより、断片的な知識や不確かな情報をもとに誤解を抱く可能性が高まります。インターネットや友人からの情報だけに依存すると、正しい知識の欠如が起きることがあります。

2. 性に関する不安や羞恥心の助長

人間の生殖や妊娠について学ぶ機会がないことは、性に対する羞恥心やタブー意識を助長する可能性があります。これが「性について話すべきではない」「学ぶ必要がない」といった誤解につながり、性に関する相談やヘルプを求めることが難しくなることもあります。

3. リスクと権利意識の欠如

若年層においても、妊娠や性感染症などのリスクに直面する可能性があるため、知識の欠如は重大な問題です。また、性教育が不十分であると、自己決定権や他者の同意・尊重について学ぶ機会も不足します。

包括的性教育におけるあるべき姿

包括的な性教育では、単に生殖のプロセスを教えるだけでなく、個人の尊厳、自己決定、他者の尊重といった倫理的な側面も含め、以下のような教育内容が必要です。

1. 年齢に応じた段階的な知識提供

小学校段階では、自己や身体の尊重、人間関係の大切さについての教育を行い、中学校に進むにつれ、受精や妊娠のプロセス、避妊やリスク管理に関する具体的な知識を含めるべきです。年齢に応じたカリキュラムは、過度な内容を避けつつ、理解を深められるものになります。

2. リプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する教育

自分の体に関する知識とそれに対する自己決定権について学び、他者の権利を尊重する視点を養うことが重要です。自己と他者の両方の身体的・精神的健康を守るための視点を取り入れることで、性的同意の重要性や相互の責任について理解を深めます。

3. 家族や社会関係における性の理解

性は身体的な面だけでなく、社会的・心理的な側面も大きく関わっています。家族関係や友人関係を通じて、他者との関わり方、コミュニケーション、感情の取り扱いについても学ぶことが、豊かな人間関係の形成につながります。

4. 科学的根拠に基づく教育と安全な環境

科学的な根拠に基づく情報提供がなされることで、迷信や誤解を排除し、信頼できる情報源として学校が機能します。また、性について自由に質問できる安全な環境を提供することが、生徒が不安なく学ぶための土台となります。

このように包括的性教育は、性に関するタブーや情報不足から生じる問題を防ぎ、若年層の健全な発育と自己尊重、他者尊重を促進することができます。

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