DV(ドメスティックバイオレンス)

DVとは

ドメスティック・バイオレンス(DV)は、親密な関係にあるパートナー間で行われる暴力や虐待を指し、配偶者や恋人、同居している家族間で発生することが多い問題です。DVは家庭内の問題にとどまらず、社会全体に影響を及ぼす重大な人権侵害です。暴力の被害者は、身体的な傷害だけでなく、精神的なトラウマを負い、長期的な心理的な影響を受けることがあります。

DVは、愛情や依存が絡み合った関係で発生することが多く、被害者が加害者から逃げることが難しい状況に置かれることが多いです。多くの場合、加害者は暴力を振るった後に謝罪し、しばらくの間は優しく振る舞う「ハネムーン期」がありますが、再び暴力が繰り返されるというサイクルが見られます。このようなサイクルの中で、被害者は自己価値を見失い、経済的・心理的に加害者に依存してしまうこともあります。したがって、DVは個人の問題にとどまらず、社会全体で取り組むべき課題です。

DVの種類

DVには多様な形態があり、被害者が経験する苦痛も多岐にわたります。以下は一般的なDVの種類です:

  • 身体的暴力:直接的な暴力行為で、殴る、蹴る、物を投げるなどの行為。
  • 精神的暴力:言葉や態度で相手を脅し、侮辱することで心理的なダメージを与える行為。
  • 性的暴力:相手の同意なしに性行為を強要する、または性的に虐待する行為。
  • 経済的暴力:相手の経済的自立を妨げ、生活費を与えない、経済的に束縛する行為。
  • 社会的孤立:友人や家族と会うことを制限し、社会的に孤立させる行為。

このようなDVの影響は、被害者の精神的・身体的健康に大きな悪影響を与え、さらに子どもや家族にも深刻な影響をもたらすことがあります。

DVに関する日本の法的枠組み

日本では、DV被害者を保護するために2001年に施行された「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)」があります。この法律は、被害者の保護と支援を目的としており、以下のような重要な規定を含んでいます。

  • 保護命令制度:被害者が裁判所に申請し、加害者に対して接近禁止や住居退去を命じることができる制度です。保護命令は、以下のような命令を裁判所が発令できます。
  • 接近禁止命令:加害者が被害者やその子どもに近づくことを禁止する命令。
  • 退去命令:加害者に対して、住居から一定期間退去させる命令。
  • 電話やメールなどでの接触禁止:物理的に接近するだけでなく、電話やSNSなどでの接触も禁止されることがあります。
  • 被害者支援施設:DV被害者を保護するためのシェルターや相談窓口が設けられ、被害者が安全に避難できる場所が提供されます。女性相談センターや市町村のDV相談窓口もこの支援の一環として運営されています。
  • 加害者に対するカウンセリングや更生プログラム:加害者の再発防止を目指し、カウンセリングや更生プログラムを受ける機会が提供されています。

3. DV防止法の改正

DV防止法は、施行以来何度も改正され、被害者保護の強化が進められています。特に、以下の点が重要な改正内容です:

  • 元配偶者への対応:当初、法律の適用範囲は配偶者に限られていましたが、後に「元配偶者」や「同居する交際相手」などにも拡大され、法的保護の対象が広がりました。
  • デートDVへの対応:最近の改正では、結婚していない恋人間(デートDV)も保護の対象として明記されています。これにより、交際相手からの暴力もDVとして法的に対応可能となりました。

4. 刑法に基づく処罰

DV行為は、配偶者やパートナー間の問題にとどまらず、刑法に基づく犯罪として処罰される可能性もあります。以下の行為は刑法で処罰されます:

  • 暴行罪・傷害罪:身体的な暴力行為は、暴行罪や傷害罪として処罰されます。
  • 脅迫罪・名誉毀損罪:言葉や態度による精神的暴力も、脅迫や名誉毀損として刑事処罰されることがあります。
  • 強制わいせつ罪・強制性交等罪:性的暴力行為は、強制わいせつや強制性交等罪に該当します。

これらの刑事罰は、被害者がDV防止法に基づいて保護命令を取得している場合や、被害者が被害届を提出することで、加害者に対して適用されることがあります。

5. DVから逃れるための支援体制

DV被害者を支援するための体制は、法律に基づいて整備されています。主な支援体制は以下の通りです:

  • DV相談支援センター:全国に設置されており、24時間対応の相談窓口が設けられています。被害者はここで専門のカウンセラーと話し合い、シェルターへの避難や法的な支援を受けることができます。
  • 緊急避難シェルター:DV被害者が加害者から逃れるために一時的に避難できる施設です。安全な場所で生活しながら、今後の対策を相談できます。
  • 法的支援:弁護士による無料相談や法的手続きを支援する制度もあり、被害者が法的に守られるための措置が取られます。

6. DVの被害を防ぐために

DVは長期的に心身に大きなダメージを与えます。被害を防ぐためには、以下のポイントが重要です:

  • 早期発見と対応:DVの兆候を早期に認識し、逃げ場や支援体制を整えることが重要です。
  • 周囲の理解と支援:DVは被害者一人で解決することが難しいため、家族や友人、専門機関がサポートすることが不可欠です。
  • 教育と啓発:DVに対する社会の理解を深めるために、学校や職場での教育や啓発活動も重要な役割を果たします。

結論

DVは、配偶者やパートナー間での暴力や虐待を指し、身体的、精神的、性的、経済的なさまざまな形で現れます。日本では「DV防止法」により、被害者を保護するための法律や支援体制が整備されており、接近禁止命令やシェルターなどの保護措置が提供されています。被害者を守り、暴力を防止するためには、早期の支援や法的措置が重要です。

DV被害に遭った際に、相談や通報ができる機関はいくつかあります。日本では、DV防止法の下で被害者支援のための相談窓口や支援施設が設置されています。以下に、DV被害者が相談できる主な窓口を紹介します。

DVにあったときの相談先

1. 警察

DVは緊急時において命に関わる可能性があるため、すぐに警察に通報することが重要です。以下の方法で警察に連絡することができます:

  • 110番通報:緊急時にはすぐに110番に電話し、DV被害を報告します。警察は現場に駆けつけ、状況に応じて加害者の逮捕や被害者の保護を行います。
  • 最寄りの警察署に相談:直接警察署に行って、DVの相談をすることも可能です。相談の際には、過去の暴力の状況や証拠を提示するとスムーズです。

2. 全国女性相談センター

全国の都道府県に設置されている「女性相談センター」では、DV被害者を対象に専門的なカウンセリングや支援を行っています。以下の連絡先から24時間対応のDV相談を受けることができます。

  • DV相談+(プラス):電話番号 0120-279-889
    全国どこからでも無料で利用できる24時間対応の相談窓口です。電話だけでなく、メールやチャットでの相談も可能です。複数言語対応もしています。
  • メール・チャット相談:メールやチャットでの相談も受け付けています。アクセスは DV相談+ のウェブサイトから行えます。

3. 地方自治体のDV相談窓口

各都道府県や市区町村には、DV相談窓口が設置されています。これらの窓口では、専門の相談員がDV被害者の支援を行い、シェルターの紹介や法律的なアドバイスも提供します。地方自治体のホームページで、最寄りの相談窓口の情報を確認することができます。

4. 法テラス(日本司法支援センター)

法的な支援が必要な場合、法テラスが無料または低額で弁護士による法律相談を提供しています。DV被害者のための特別な支援プログラムがあり、保護命令の申請やその他の法的手続きをサポートしてもらえます。

  • 電話番号:0570-078374(全国共通)
    法テラスのウェブサイトでも相談内容に応じた情報が掲載されています。

5. 配偶者暴力相談支援センター

DV防止法に基づき、全国の各都道府県に設置された配偶者暴力相談支援センターは、DV被害者のために一時避難施設やカウンセリング、法的手続きのサポートを提供しています。各センターで相談員が対応し、避難や生活支援、加害者からの保護をサポートしています。

6. 民間の支援団体・NPO

民間団体やNPOもDV被害者の支援を行っています。例えば、以下の団体が全国で支援活動を行っています:

  • NPO法人 女性の家 HELP:日本国内外でDVや人身取引被害者を支援する団体です。緊急避難場所や生活支援、カウンセリングを提供しています。
  • NPO法人 全国女性シェルターネット:DV被害者を対象に、安全な避難先を提供し、相談や法的サポートも行っています。

7. 児童相談所(子どもが関係する場合)

DVが発生している家庭では、子どもも被害を受ける可能性があります。その場合、児童相談所が適切な対応を行います。子どもが直接DVを受けていなくても、家庭内暴力の影響を受けている場合、児童相談所への通報や相談が適切です。

まとめ

DV被害に遭った場合は、すぐに助けを求めることが大切です。緊急時は110番に通報し、非緊急の場合でもDV相談+などの専門窓口や地方自治体、警察、法テラスなどの機関に相談することが推奨されます。各機関は、被害者が安全に生活を再建できるようサポート体制を整えていますので、ためらわずに相談することが大切です。

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